磁石の吸引力と反発力の比較実験(2)
「磁石の吸引力と反発力の比較実験」への追加です。反発力と磁束密度の関係を実験で調べました。結果は、反発力も磁束密度のほぼ2乗に比例すると言うものでした。また、二つの電磁石の関わり具合を電流干渉率で表し比較してみました。
「磁石の吸引力と反発力の比較実験」で磁石A、Bを直列に接続して、同じ電圧で吸引力と反発力を比較しましたが、この時の電流は、吸引時と反発時で大きく異なりました。吸引時と反発時の電流の違いを「電流干渉率」で比較してみました。この電流干渉率を磁石間の隙間を変えたり、電流を変えたりして、細かく調べて見ました。又、私のブログ「変圧器の負荷電流に関する実験」では、ドーナツ鉄心に1,2次コイルを同じ位置に巻いた場合、別々の位置に離して巻いた場合、空芯コイルその他の場合での電流干渉率を調べましたので一緒に紹介します。
1.反発力と磁束密度のグラフと測定結果です。
測定記録 グラフの色は上のグラフの色を示します。
2.反発時の磁束の測定位置と各所の磁束密度
3.反発時の上下方向の位置と磁束密度
隙間30mmと50mmで測定しました。
隙間30mmの場合は、 中央、上端、下端で測定しました。
隙間50mmの場合は、中央、中央から上下15mmの位置、上端、下端で測定しま
した。
磁束総数は、測定位置の磁束密度の平均に磁束が通過する面積をかけたものです。
隙間30mmの場合は0.03×0.03×4面をかけたものです。
隙間50mmの場合は0.03×0.05×4面をかけたものです。
磁石からの磁束数は、吸引時の磁石から出る磁束で、9.の吸引時の上端と下端の磁束数の合計です。そして、これは、反発時の隙間から出る磁束数とほぼ同じ値です。
4.反発力の測定方法(吸引力も測定しました)
写真の様な方法です。
(1)料理用電子計りを使用しました。下側に長さ50mmの磁石、上側に長さ
70mmの磁石を配置しました。
(2)下側の磁石は電子計りに載せました。上側の磁石は万力で固定しました。吸引力
の場合、電子計りはーの重さを表示します。吸引力が下側の磁石の重さより少し
小さい場合迄、吸引力が測定できます。吸引力が下側の磁石の重さより大きくな
ると磁石が上の磁石に引き付けられ、吸引力が測定できなくなります。この場合
は磁石の下に重りを置きテープで磁石と重りを固定しました。
(3)料理用の電子計りは1Kg迄の測定ですので、上と下の磁石の隙間が5mmと
10mmで電流が4Aの場合は12Kg迄計れる電子計りを使用しました。
5.反発力の磁束密度の測定方法
写真のような方法です。
(3)磁束検知コイルBの面積:0.000264m^2
6.吸引力の磁束密度の測定方法
写真のような方法です。
(3)検知コイルAの面積:0.0009m^2
7.磁石及び実験の仕様
7-1.磁石の仕様
7-2.実験の仕様
(1)磁石の隙間は5mm、10mm、20mm、30mm、50mmで測定しまし
た。
(2)電流は1A、2A、4Aで測定しました。
(3)電流の調整は単巻変圧器の電圧調整で行いました。それぞれの電流の
±0.05A 内に調整しました。
(4)吸引の結線で電流を調整し、吸引力を測定しました。
反発力の測定は吸引力測定の電圧そのままで行いました。
7-3.磁束密度の計算
実際に測定するのは磁束検知コイルに発生する電圧です。これよりコイルを通過する磁束数を計算し、これを磁束が通過するコイルの平均面積で割り、磁束密度を計算しました。
磁束数の計算
コイルに発生する電圧:V(V)
磁束数:Φ(Wb)
v=Nδφ/δt
N=磁束検知コイルの巻数
φ=Φsin(ωt)
ω=2πF(ここは埼玉県久喜市なのでF=50Hzです。)
v=N×δφ/δt=N×δΦsin(ωt)/δt
=N×Φ×ω×cos(ωt)=Vcos(ωt)
測定できるVは実効値です。熱量はIV=V^2/Rで、吸引力も反発力も磁束密度の2乗に比例しますので、実効値Vを使用しても良いと思います。従いまして、
Φ(Wb)=V/Nω=V/N(2πF)=V/(N×314)
B=Φ/S
B:磁束密度(Wb/m^2)
S=磁束検知コイルの平均寸法の面積(m^2)
吸引時の磁束を測定する場合、Sは磁束検知コイルAのコイルケース内寸法(鉄心の寸法)で計算しました。
7-4.磁束密度と吸引力
吸引力:P(ニュートン)
磁石の面積:S(m^2)
μ0:真空の透磁率=4π×10^-7
1ニュートン=102g
吸引力(g)=102×B^2×S/(2×μ0)
=102×B^2×S/(2×4×3.14×10^-7)
8.吸引力、反発力、磁束検知コイルの電圧
検知コイルの位置は磁束検知コイルA,磁束検知コイルB共磁石隙間の中央です。
9.吸引力と磁束密度のグラフと測定結果です。
測定結果です。
隙間5mmと10mmの場合は磁束検知コイルAが挿入できないので、磁束数は吸引力より逆算したものです。吸引力が磁束密度の2乗に比例することから逆算したものです。
磁石内磁束数は磁石の電圧及び電流、コイルの巻数及び抵抗からコイルに発生する電圧を計算し、これより、磁束数を計算したものです。
上下方向の磁束密度
10.吸引の各所の磁束密度
電流は2Aです。マス目は1cmです。
11.磁石単体の各所の磁束密度
電流は2Aです。マス目は1cmです。
12.電磁石の隙間と電流
12-1.電流干渉について
二つの電磁石の吸引と反発の切り替えは電磁石の配線の変更で行いました。吸引から反発に切り替えると電流が増えました。二つの電磁石による磁界は互いに相手の電磁石のコイル内に入り、磁束は両者の磁界の合計で作られると考えています。吸引時の場合は、両者の磁界が同じ向きなので、互いに影響しない状態にある時より電流が減少します。勿論、電圧が同じ場合です。電圧が同じ場合は磁束数も同じです。吸引時は、相手の電磁石から来る同じ向きの磁界があるので少ない電流で済むのです。反発時は、両者の磁界が反対向きになるので、互いに影響しない状態にある時より電流が増えます。
二つの電磁石の隙間を変えたり、電圧を変えたりして、電流の増減を調べました。磁束密度Bは、磁界H、透磁率μとして、B=μHですが、二つの電磁石の吸引時、反発時で電流が変化するのは、磁束密度Bの合計なのか、磁界Hの合計によるものか、実験で確認できます。変圧器の鉄心では、磁束密度Bがある程度以上になるとB=μHが成り立たなくなり、電流が増え磁界Hが大きくなっても、磁束密度Bの増加が非常に緩やかになります。この状態を「磁束が飽和した」と言います。電圧は磁束数で決まりますから、電圧は磁束数を表していることになります。磁束が飽和した時の電圧を飽和電圧と呼ぶことにします。因みに、磁界は鉄心の有無にかかわらず、電流によってできるものです。
電圧が飽和電圧以下でも、電流は、無負荷の飽和磁束を作る電流を超えても、二つのコイルには電流干渉があります。飽和電流を超えても電流干渉が在るということは、電流干渉は、磁束を通じてではなく、磁界を通じて起こる現象だと思っています。
このことを示す実験は、下記の写真のコイルによる実験です。無負荷時と負荷時の電流ー電圧の実験です。
下記に示すドーナツBの無負荷時と負荷時の電流ー電圧のグラフです。下のコイルの写真の下にそのグラフがあります。オレンジ色のグラフは、負荷時のグラフですが、飽和電流を超えても、飽和電圧までは、電圧は電流に比例して増加していることを示しています。負荷時の電流干渉は、二つの電磁石の反発時の電流干渉と同じです。1次コイルと2次コイルの負荷電流は互いに相手のコイル内に反対の磁界を作ります。磁束は両者の磁界の合計によって出来ますから、負荷電流では磁束が出来ないのです。負荷電流が磁束を作らないということは、二つのコイル間の関係は磁束を通じてではなく、磁界を通じて起こっていることになります。オレンジのグラフは、これを表しています。
単巻変圧器の鉄心に1次、2次コイルを巻き実験しましたので、その結果を示します。
単巻変圧器のコイルの上に巻きました。
1次コイルの電流と電圧のっグラフです。
横軸:1次コイルの電流 縦軸:1次コイルの電圧
青色のグラフは2次コイル無負荷時の1次コイルの電流と電圧のグラフです。
オレンジ色は2次コイルに抵抗を接続した場合の1次コイルの電流と電圧のグラ
フです。
無負荷の場合は、電流が0.1A以上になると磁束が飽和して、電圧の増加が非常に緩やかになっています。2次コイルに負荷がある場合には、電流が0.1Aを超えても電圧は電流に比例して増えて行きます。
2次側に負荷がある場合は、二つの電磁石が反発状態に在る時と同じです。二つの電磁石がリングになったと考えれば良いと思います。この変圧器の2次側に負荷が在る場合、1次コイルと2次コイルには、互いに逆向きの磁界を作るように電流が流れます。逆向きの磁界が在る為磁束が出来ないので、飽和する電流を超えても飽和しないのです。
12-2.測定方法
電圧をそのままにして、電磁石の隙間を変えて電流を測定しました。吸引と反発で測定しました。
12-3.コイル仕様
電磁石A,B共コイルの巻数は300回、コイルの抵抗はAが2.72Ω、
Bが2.59Ωです。電磁石A、Bは直列に接続します。
12-4.測定結果
「300離して直角に置く」とは、「電磁石どうしを300mm離して、電磁石どうしが直角になるように置く」ことです。
電流の0.5A、1A、2A、4A、は非干渉時の電流を示します。この時の電圧は表の最下段に示しますが、この電圧で電磁石の隙間を変えて、その時の電流を測定しました。
12-5.電流干渉率の計算
12-4.の結果は、吸引時の電流は非干渉時の電流より小さく、電磁石の隙間が小さいほど小さくなっています。反発時の電流は非干渉時の電流より大きく、電磁石の隙間が小さいほど大きくなっています。吸引時、二つのコイルは同じ方向の磁界を作りますから、二つのコイルの磁界の合計て磁束を作ることになり、電流が小さくなります。電磁石の隙間が小さいほど合計が大きくなるので、電流が小さくなります。反発時、二つの電磁石は反対方向の磁界を作るので、二つの磁界の引算で磁束を作ることになり、磁束が減少し、電流が大きくなります。二つの電磁石の隙間が小さいほど引算した磁界が小さくなり、電流が大きくなります。
電流干渉率の計算
電磁石の電流をIsとします。
電磁石Aのコイルに発生する電圧をVsとします。
非干渉時の電流をInとします。
非干渉時の電磁石Aのコイルに発生する電圧をVnaとします。
電磁石Bに流れる電流の一部が電磁石Aに影響を与えるとして、この割合をKとします。
電磁石のコイルに発生する電圧は電磁石のコイルに流れる電流に比例するので
Vna=kv×Inです。 kvは定数です。
干渉時、電磁石Aのコイルに発生する電圧Vsは
Vs=kv×(Is+K×Is)=kv×Is×(1+k)
kv=Vna/Inですから代入して
Vs=(Vna/In)×Is×(1+K)
これよりKは
K=(Vs/Is)×(In/Vna)-1 となります。
下の表が各隙間におけるコイルに発生する電圧と電流干渉率です。
反発時はーの干渉率となります。
12-6.その他の電流の干渉実験の仕様と実験結果
(1)コイル仕様
①ドーナツA
鉄心内径:40mm
鉄心外形:100mm
鉄心高さ:70mm
巻数:246回(両コイル共)
②ドーナツB
鉄心内径:50mm
鉄心外形:100mm
鉄心高さ:50mm
巻数:251回(両コイル共)
③鉄角棒
鉄心寸法:30mm×30mm×(70mmと50mm)
材質:SS400
巻数:300回(両コイル共)
④木材
巻芯:木材 30mm×30mm×60mm
巻数:300回(両コイル共)
⑤B2空芯
コイル内径:50mm
コイル外形:72mm
コイル幅:70mm
推定巻数:800回(両コイル共)
⑥同巻空芯
コイル内径:50mm
コイル外形:72mm
コイル幅:70mm
線径1mm2本と線径0.4mm1本を一緒に巻きました。
推定巻数:600回(両コイル共)
(2)電流干渉実験の結果
ドーナツAは、ドーナツ型の鉄心に1,2次コイルを同じ位置に重ねて巻きました。
ドーナツBは、ドーナツ型鉄心に1,2次コイルを別々の位置に巻きました。
上記二つの鉄心は単巻変圧器の鉄心です。単巻変圧器のコイルの上に1,2次コイルを巻きました。
鉄角棒は、材質SS400の角棒を鉄心にしました。
木材は、木の角棒を芯にしました。
B2空芯は、ボビンに巻いたコイル2個です。
同巻空芯は、ボビンに1,2次コイルを一緒に巻きました。
反発時1は、コイルの電流が2.05Aの場合
反発時2は、コイルの電流が0.12Aの場合
0.12Aは、2次コイル無負荷時の1次コイルの100V時の電流です。
2.05Aは鉄心を飽和出来る電流ですが、0.12Aは飽和する直前の電流です。
鉄心が飽和すると電流干渉式が成り立たないと思い0.12Aでも実験しました。結果は同じでした。
「鉄心が飽和すると電流の干渉式が成り立たない」と書きましたが、鉄心が飽和すると下のドーナツBの無負荷の電流ー電圧のグラフで見る通り、In/Vnaが変わってしまうのです。しかし、ドーナツBの反発時1,2の電流干渉率は同じです。その理由を考えてみました。
ドーナツBの電流ー電圧
横軸:1次コイルの電流 縦軸:1次コイルの電圧
青色のグラフは2次コイル無負荷時の1次コイルの電流ー電圧のグラフです。
オレンジ色のグラフは2次コイルに抵抗を接続した場合の1次コイルの電流ー電圧の
グラフです。
鉄角棒の場合は、下に示す角棒のIn/Vnaグラフに示される通り磁束の飽和はありませんので、「K=(Vs/Is)×(In/Vna)-1」が使えます。
鉄角棒のIn-Vna
横軸:In 縦軸:Vna
13.飽和のあるドーナツ鉄心で電流干渉率
飽和のあるドーナツ鉄心で電流干渉率を考えてみました。飽和があっても、電流の作る磁界は電流に比例しますので、
Hn=kh×In とします。Hnは電流Inが作る磁界です。khは定数
です。
Vna=Cn×Hn とします。ただし、Vna は飽和しない電圧です。
Cnは定数です。
Vs=Cs×Hs とします。Csは定数です。
Hs=Ha+KH×Hb
KHは磁界の干渉率です。
HaはAコイルの磁界です。
HbはBコイルの磁界です。
Ha=Hbです。巻数も抵抗値も同じです。
従って
Hs=Ha+KH×Ha=Ha×(1+KH)
Hn=kh×InよりHa=kh×Isですから
Hs=kh×Is×(1+KH)
Hsは干渉時に電磁石コイルに働く磁界です。
Vs=Cs×Hs=Cs×kh×Is×(1+KH)
kh=Hn/In Hn=Vna/Cn
ですから
kh=(Vna/Cn)×(1/In) 代入して
Vs=Cs×(Vna/Cn)×(1/In)×Is×(1+KH)
=(Cs/Cn)×(Vna/In)×Is×(1+KH)
KH=(Vs/Is)×(In/Vna )×(Cn/Cs)-1
ですが、実は、Hs=Ha+KH×HaのHsが鉄心に飽和磁束を作らない場合、つまり、Vs=Cs×HsのVsが飽和電圧以下の場合には、Cs=Cnなのです。上のドーナツBの電流ー電圧グラフが示す通り、ドーナツBの飽和電圧以下です。従って、鉄心に飽和はないので、Cs=Cnとなり、
KH=(Vs/Is)×(In/Vna )-1
となります。そして、(Vs/Is)×(In/Vna )-1=Kですから、
KHは電流干渉率Kと同じになります。
コイルの電流が飽和電流を超えても、電流干渉率が変わらないことと、コイルの
In-VnaグラフとIs-Vsfグラフが直線であることが、ドーナツBの反発時1,2の電流間干渉率Kが同じになる理由です。グラフが直線であることは、
(In/Vna)も(Vs/Is)もグラフの直線上で同じ値だからです。因みに、無負荷時の1次電流と電圧は、非干渉時の電流Inと電圧Vnaと同じです。
ドーナツAのIs-Vs
横軸:Is 縦軸:Vs
ドーナツBのIs-Vs
横軸:Is 縦軸:Vs
14.磁力線を求める
磁力線は磁界Hを表現するものですが、磁界をH、磁束密度をB、透磁率をμとすると、B=μHですから、磁力線と磁束の線は同じになります。磁束線には縮む力が有り、それはB^2に比例します。また、反発力と磁束密度の関係から磁束線には反発する力が有り、それもB^2に比例するようです。そして、吸引力と磁束密度のグラフを見れば分かるように、吸引力は、磁石の隙間が変わっても、ほぼ、隙間中央の磁束密度から計算できます。反発力の場合でも、磁石の隙間を決めれば、反発力が磁束密度から計算できます。ですから、磁石の隙間を決めれば、吸引力も反発力も磁束密度Bから、磁束線の縮む力、磁束線の反発する力を計算する式が出来ます。これより磁束線の1本の縮む力と磁束線1本の反発力を求めることが出来、これより磁束線、つまり、磁力線が求められると思っています。人生最後までの挑戦になりそうです。何しろ私は、来年(2021年)の6月から後期高齢者なのです。
お付き合いありがとうございます